内視鏡手術

経鼻内視鏡手術とは

経鼻内視鏡手術では、神経内視鏡という4mm程度の硬性内視鏡を用い、鼻の穴を使って病変にアプローチします。皮膚を大きく切ったり骨を大きく外したりする必要は一切なく、鼻の穴から全ての操作が完結します。このため開頭手術に比べると低侵襲であるという特徴があります。また髪の毛を剃る必要も無いため、整容的にも優れた手術方法です。腫瘍の種類によっては、腫瘍発生母地を早期に処理することが出来るため、むしろ開頭手術よりも有利とも言えます。内視鏡は4K解像度のものを用い、真っ直ぐ見える0度のものに加え、30度や70度斜めが見える斜視鏡も用いて手術をおこないます。
4mmの硬性内視鏡

経鼻内視鏡手術の適応疾患

頭蓋底部に発生する腫瘍のうち、多くのものが経鼻内視鏡手術で治療可能です。

下垂体腺腫 外側・上方進展傾向があまりにも強いものを除くほぼ全例
ラトケ嚢胞 全例
頭蓋咽頭腫 脳室内に限局するものや外側進展傾向が強いものを除くほぼ全例
頭蓋底脊索腫 ほぼ全例
頭蓋底軟骨肉腫 ほぼ全例
髄膜腫 前頭蓋底部、海綿静脈洞部、錐体斜台部、大孔前面、眼窩内側、眼窩尖部に発生するもの
神経鞘腫 三叉神経鞘腫など海綿静脈洞部や側頭下窩に発生するもの、頚静脈孔神経鞘腫で外側進展が強くないもの
眼窩内腫瘍 眼窩後方の内側~眼窩尖部に発生するもの
その他の稀な腫瘍 脳幹前面の類上皮腫で外側進展の強くないもの、鞍上部くも膜嚢胞、嗅神経芽腫、斜台部骨巨細胞腫、斜台部血管腫、頭蓋底部骨腫

経鼻内視鏡手術の進め方

全身麻酔を導入した後に、喉の奥に血液などが垂れ込むのを防止するためのガーゼを詰めます。鼻の中を消毒し、エピネフリン希釈液等を用いて粘膜を収縮させておきます。もともと安全な手術ではありますが、より安全に配慮するため、必ず術中ナビゲーションを使用します。腫瘍の進展状況によっては、神経機能モニタリングを駆使し、手術操作中に神経の電気的信号を確認しながら進めることで、機能温存を高率に達成出来ます。

鼻の中に入り、内視鏡で確認しながら奥の粘膜を切開し、目的の場所に到達します。多くの場合、蝶形骨洞という大きな副鼻腔を経由して手術を行うことになります。前頭蓋底腫瘍であれば鼻腔・蝶形骨洞の天井を開放して硬膜を露出しますし、下垂体病変であればトルコ鞍部を開窓します。斜台部や後頭蓋窩病変であれば斜台の骨や蝶形骨洞の底部を骨削除していきます。腫瘍摘出の方法は腫瘍ごとに微妙に異なりますので、各腫瘍のページを参照してください。

術後には、術中に髄液漏出を認めなければ、生体吸収性のスポンジのようなものを摘出部に詰め、終了します。万が一髄液漏出を認めた場合には、腹部や大腿部より小量の脂肪・筋膜を採取し、手術部に詰めておくことで術後の髄液漏を予防します。腹部・大腿部のどちらが最適かは術中に判断します。術中髄液漏が無ければ、必ずしも鼻腔内に詰め物を留置する必要はありませんが、髄液漏を認めた場合には鼻腔の奥に風船(サイナスバルーンと言います)を留置し、その手前をスポンジ(メロセルと言います)でパッキングする形になります。また髄液漏予防目的に、腰から管を入れて脳脊髄液を定期的に排出する処置(腰椎ドレナージと言います)を行うこともあります。

経鼻内視鏡手術の進め方

手術後管理

術後は頭部CTにて出血などの問題が無いこと確認し、集中治療室に向かいます。多くの場合、翌日にMRIを撮影し、病変の摘出状況を評価します。離床や食事摂取は術後1日目から開始します。集中治療室には1泊ないしは2泊していただき、その後一般床に向かいます。

腰椎ドレナージが入っている場合は3日程度で抜去します。腰椎ドレナージが入っている間も、回路をクランプすることで歩行は可能ですが、その都度看護師さんに申し出ていただく必要があります。鼻腔内のバルーンやスポンジは、状況にもよりますが3-5日程度で除去します。退院までの期間は手術から7日程度で、体力の回復具合を見ながら患者さんと相談して決定します。

術後に鼻腔粘膜同士が癒着したりすることもあるため、その後の鼻腔の管理も大切であると考えています。基本的には術後に耳鼻科の先生に鼻腔内の状況を評価していただき、また鼻洗浄といって生理食塩水を用いて1日に2回程度鼻の中を洗い流していただきます(ご自宅でご自身で可能です)。これを1~数か月程度行っていただくことになります。

鼻機能の“質”の温存

開頭に比べて低侵襲な経鼻手術ですが、術後に慢性の鼻漏や匂いの低下、鼻閉感といった不快感を訴える症例は少なくないとされ、こういった鼻機能の質の低下は時として集中力の低下、精神的パフォーマンスの悪化を招くことがあるとされています。これは特に、鼻の解剖構造を広範囲に破壊するような手術を行った場合に顕著な傾向があり、当院では鼻中隔や鼻甲介よいった鼻の解剖構造をなるべく損なわない丁寧な手術を心掛けています。

TOP